住宅ローンは一度契約すれば完済するまでずっと返済計画通りに進めなくてはならないわけではありません。
当然ながら、生活にゆとりが出てくれば早めに返済して老後に備えるということも可能です。
通常の返済計画よりも切り上げて返済することを、繰り上げ返済などとよびます。
しかし、契約者の方によっては繰り上げ返済のことをそもそも知らないという方もいらっしゃるかもしれません。
今回の記事ではそれら住宅ローンの繰り上げ返済について解説します。
一見すると繰り上げ返済は早目に行った方が良いと思われがちですが、実は必ずしもメリットばかりとはいえません。
デメリットもあるので、慎重に判断していく必要があります。
ここでは、特に、住宅ローンの繰り上げ返済が損をするのか得をするのか、それらの点について重点を置いて説明します。
繰り上げ返済とは?
まずは住宅ローンの繰り上げ返済はどのようなものなのかというと、簡単にいえば「元金の一部や全部を返済すること」を意味します。
これによってどうなるのかというと、その後に支払う予定だった利息を節約できるわけです。
住宅ローンには通常、固定金利や変動金利などの金利が発生します。
たとえば、3,000万円の融資を金利1.2%で35年間という条件で受けた場合、完済時には約3,650万円となります。
実に利息だけで675万円も支払っている計算となるのです。
その利息を避けるために元金の一部や全部を早目に返済してしまうこと、それを住宅ローンの繰り上げ返済とよびます。
住宅ローンの繰り上げ返済を行うことで利息が減るほか、経済的負担を減らせますし、それに伴って家計も安定させられます。
繰り上げ返済は利息が多いほど大幅に経済的負担も減るので、無理なくできるのであれば切り上げて返済してしまうのもおすすめです。
ただし、繰り上げ返済には種類もあり、タイミングによっても損得の結果が変わります。
そこは慎重に判断していく必要があります。
繰り上げ返済の種類
住宅ローンの繰り上げ返済には主に返済期間短縮型と返済額軽減型の2種類があります。
文字通り、返済期間を短縮するのが返済期間短縮型で返済額を軽減するのが返済額軽減型となります。
ここからは、この2つの種類について、詳しく見ていきましょう。
返済期間短縮型
返済期間短縮型は支払う返済額に変わりはないものの、返済期間が短縮される繰り上げ返済となります。
これらは返済期間が短くなるため、返済期間中に支払う予定だった利息も減るのが特徴です。
特に返済期間短縮型は返済額軽減型と比べて、利息節約の効果が大きいとされています。
なかでも、定年までに住宅ローンを完済したい方や老後の生活資金を増やしたい方などは、返済期間短縮型がおすすめです。
返済期間短縮型であれば定年後の経済的負担も軽減できるため、より無理することなく生活できます。
それでいて浮いた分を老後の生活資金として貯金しておけば、さらに老後の生活も安定するでしょう。
将来設計をより強固なものにしたい方に向いています。
返済額軽減型
返済額軽減型は支払いの返済期間に変わりはないものの、返済額が軽減される繰り上げ返済となります。
返済額が減るため、返済期間中の家計を安定させられるのが特徴です。
返済額軽減型は返済期間短縮型に比べて利息節約の効果は小さいものの、人生設計には確実に影響を与えます。
特に、子どもや孫の養育費のために家計を見直したい方や金利上昇のリスクに備えたい方などは、返済額軽減型が最適です。
返済額軽減型であれば子供や孫の成長に合わせて生活資金を確保できますし、支出が増えたとしても対応できます。
金利が上昇してしまうというリスクにも備えられるため、日々の生活を変えずに節約したいという方に向いているでしょう。
返済期間短縮型と返済額軽減型のシミュレーション
では、同じ条件で返済期間短縮型と返済額軽減型のどちらかを選択した場合、どれくらいの節約効果が見込めるのでしょうか。
ここからはそれぞれのシミュレーションをわかりやすくまとめるので、どちらの方法を選ぶべきかどうかの判断基準としてみてください。
なお、ここでは「融資額3,000万円、適用金利3%、返済期間30年、繰り上げ返済時期3回目、繰り上げ返済額100万円」であることを条件とします。
その場合、以下の表のような結果となります。
返済期間短縮型 | 返済額軽減型 | |
期間短縮月数 | 1年10ヵ月 | - |
毎月返済額 | 10万5,401円 | 10万1,163円 |
軽減利息額 | 約137万円 | 約51万円 |
この表からもわかるように、同じ条件であれば返済期間短縮型の方が返済額軽減型に比べて、お得になることがわかります。
その差額は実に86万円となります。
これは金利が高くなればなるほど、繰り上げ返済でお得になる可能性が高くなることを意味するわけです。
逆に、金利が低ければ、繰り上げ返済で損をするとは言わないまでも、節約になる可能性も低いです。
どちらで繰り上げ返済の行うべきなのか、自分が借り入れている住宅ローンの条件と照らし合わせて考えていく必要があります。
ただし、経済的負担を減らすとは言っても、どこに重点を置くかによって変わってきます。
たとえば、返済期間短縮型を選ぶか返済額軽減型を選ぶかによって、返済生活にも影響が出るわけです。
そこは毎月行う返済がどう変わるのか、どのように経済的負担が異なるのかということを理解しなくてはなりません。
どちらの方法も住宅ローンを早めに切り上げて返済できることに変わりはありませんが、選ぶ方法によって利息がどれほど異なるのかという点についても考えなくてはなりません。
これらは自分で判断するのが難しいため、契約している金融機関に直接相談するのが良いでしょう。
なお、金融機関に相談することに対して気が引けるなら、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に最適解を導き出してもらうのもおすすめです。
繰り上げ返済はどのタイミングが効果的?
ここまで住宅ローンの繰り上げ返済について知ると「では実行するタイミングはいつが理想なのか」と疑問に思う方も少なくないかもしれません。
これに関しては、先に言ってしまうと「早ければ早いほど良い」というのが結論となります。
まずは以下の「融資額3,000万円、適用金利1.5%、返済期間35年、繰り上げ返済額200万円、返済期間短縮型による繰り上げ返済」という条件のシミュレーションを参考にしてみてください。
返済済みの期間 | 返済総額 | 短縮期間 | 節約利息 |
10年 | 約3,770万円 | 2年8ヵ月 | 約85万円 |
20年 | 約3,810万円 | 2年3ヵ月 | 約46万円 |
繰り上げ返済しない | 約3,860万円 | 0年 | 0円 |
以上の表は10年目と20年目、そして繰り上げ返済しなかった場合に想定される利息軽減効果を表したものです。
この表からもわかるように、繰り上げ返済額がどうであれ早めに繰り上げ返済した方がお得となる場合が多いといえます。
そのため、もし無理のない範囲で繰り上げ返済ができるのであれば、早い段階から準備を進めておくのが賢い選択といえます。
もちろん、一気に何千万円単位で返済する必要はありません。
それこそ10年や20年という節目まで貯金しておいて、徐々に繰り上げ返済していくという方法もあります。
どのタイミングで実行するかによって節約できる利息も変わるものの、余裕のある時に実行するのが最善種です。
あくまでも繰り上げ返済のタイミングとしては早ければ早い方が良いですが、それによって生活自体が破綻するようでは意味がありません。
必ず無理のない返済計画の上、繰り上げ返済できる余地がないかどうか考えてみましょう。
繰り上げ返済住宅ローン控除と住宅ローン繰り上げ返済の関係
住宅ローンには契約から10年間、住宅ローン残高の1%(2022年からは0.75%)を控除してもらえる制度があります。
これらは所得税や住民税から控除される仕組みとなっており、最大で400~500万円ほどの節税効果を生み出します。
しかし、あまりにも繰り上げ返済を早い段階で実行してしまうと、これら住宅ローン控除の恩恵をほとんど受けられない可能性が出てきます。
仮に1年目から年間50万円ずつ10年間繰り上げ返済をした場合、住宅ローン控除と利息軽減額の合計は330万円となります。
その一方、繰り上げ返済をせずに住宅ローン控除を受けた場合、住宅ローン控除と利息軽減額の合計は335万円となります。
このように、金利が低い条件下であれば、むしろ住宅ローンの繰り上げ返済は行わず、住宅ローン控除を受けた方がお得となる場合もあります。
返済10年目以降は住宅ローン控除が受けられないので自由に繰り上げ返済しても問題ありませんが、もし金利が低いということなら無理に繰り上げ返済する必要はありません。
ただし、金利が高い場合は早い段階から繰り上げ返済することで利息を軽減しやすくなります。
これらの点は金利の上下によっても左右されるため、自身が契約した段階の金利が低いか高いかでも判断すべきです。
繰り上げ返済をする際の注意点
繰り上げ返済は生活に余裕がある場合には最適な選択肢となるのですが、注意点もあります。
たとえば、前述の通り繰り上げ返済をすることで住宅ローン控除の恩恵を最大限に受けられなくなることがあります。
その点は前述の通り、よく考えてタイミングを見計らう必要があるでしょう。
それだけでなく、家計を顧みずに繰り上げ返済することもおすすめできません。
繰り上げ返済は利息を減らせるのが利点ですが、急いで返済しようとするあまり現在の生活を犠牲にすることは避けたいところです。
数百万円単位で繰り上げ返済としても、それによって貯金を切り崩すなど家計に影響のあるやり方はおすすめできません。
それこそ人生は何があるかわからないため、貯蓄などは別途で確保しておいて、それでも余裕がある場合に繰り上げ返済をするのが良いでしょう。
まとめ
住宅ローンは35年なら35年という決まった期間で返済していくのが普通です。
しかし、その間に余裕ができた場合は繰り上げ返済という手段も選べます。
それによって数百万円単位で支払いを速めれば、その分だけ利息も節約できます。
そのため、もし家計に余裕があるということなら繰り上げ返済も考えてみましょう。
ただし、繰り上げ返済には返済期間短縮型や返済額軽減型などの種類があるほか、住宅ローン控除などとの兼ね合いでタイミングも見計らう必要があります。
ベストな選択ができるよう慎重に判断していきましょう。